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忠犬八公

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東京の渋谷という駅前に、とても有名な犬のぞうがあります。
東京に住む人々は、渋谷友人待ち合わせをする時に、よく、「今日お昼に、八公の前で会おう」などと言って、やくそくをします
このぞうは、飼い主にとても忠実だった八公という犬を記念にして、作られたものです。
八公は、一九二三年(大正十二年)に生まれました。
そして、一の時、当時、東京大学の先生をしていた上野英三郎という人に飼われました。
八公は、力強くてたくましい秋田犬で、雨の日も風の日も、雪がふろうと、台風が来ようと、毎日、朝夕、渋谷まで主人おくりむかえをしました。
ところが、上野先生は、一九二五年、家に帰る途中、おなくなりになられてしまいました。
その日も、忠実な八公は、いつものように、先生がお帰りになるのを渋谷で待っていたのです。
しかし、夜になって、空に月や星がみえるころになっても、先生は、お帰りになりません。
夜が明けて太陽が見えてきても、先生は、帰って来られません。
しかし、忠犬八公は、じっとすわったままびくとも動こうとしませんでした。
そして、晴れていようと、黒雲が出て来ようと、雨にも雪にもまけず、もう二度とお帰りにならない先生を、いつかいつかと待ちつづけ、十一年間、死ぬまで渋谷を一歩もはなれなかったとのことです。
バスや、電車や、大ぜいの人が行き来する渋谷駅前の八公のぞうを見るごとに、八公の忠実さを思いおこす同時に
相手が、五、六分おくれてきたと言って、おこりだす人間社会のはかなさみにくく思えてしかたがありません。