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みかんの木の寺

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学校へ行く道に、お寺がありました。
ほんとうに、とてもむずかしい名前でしたが、町の人たちは、「みかんの木の寺」とよんでいました。
門を入ったところに、大きなみかんの木が一本あったからでした。
それは、五月のおわりごろの話でした。
一郎たちが、ある午後、学校の帰りに、このお寺の前を通りかかった時、
おや、いいにおいがする。」との三次が、はなをクスンクスンさせました。
「ほんとだ、ほんとだ。」正雄も清も、みんなまねをして、クスンクスンとはなを鳴らしました
あまいようなすっぱいような、なんともいえないいいにおいが、気もちよくはなのおくをくすぐりました
「ああ、あのみかんの花のにおいだよ。」一郎がいいました。
見ると、門の中のみかんの木に、白いみかんの花がいっぱいさいているのです。
こんなにたくさんさいているのに、どうしてきのうまで気がつかなかったのか、ふしぎなくらいでした。
「もうすぐ、この花が、みんなみかんになるのだね。」と三次がいいました。
「いつ。」
「もうすぐ。」
「もうすぐって、いつさ。」と、正雄や清がききました。
「秋になったら。」
「いいなおあ、早く秋にならないかなあ。」
「そしたら、とって食べてやろう。」と、みんなは思いました。
みんなは、ゴクリとのどを鳴らして、つばのみこみました
秋になりました。
みかんの木には、青いみかんのみがたくさんなりました。
毎日、少しずつ大きくなりました。
すごいぞ。」
「どうだろう。まだすっぱいかな。」
ある日、こういって、一郎たちが、この木の下にあつまりました。
「とってみようか。」
「うん。」
一郎が、そっと手をのぼしました。
「こらっ。」と、そのとき、大きな声がして、本堂しょうじがガラッとあきました
お寺おしょうさんが、うでまくりをして、つっ立っていました。
みんなは、ばらばらにげました
そのつぎの日も、みんなは、またみかんの木の下にあつまりました。
すると、木のえだに、ボール紙ふだが下がっていました。
みかんをとるな。まだすっぱいぞ。」ボール紙には、こう書いてありました。
おしょうさんが書いたのだな。」
みんなは、顔を見合わせてわらいながら、こそこそと帰りました。
それから、またそのつぎの日に行くと、「あと四、五日だ。まだとるな。」と書いてありました。
そこで、みんなは、本当に四、五日まちました。
そして、とうとう、「あすまでおまち。あと一日だ。」みかんの木に、こんなふだがかけられたつぎの日のことでした。
一郎たちは、みんなでそろってお寺の門を入っていきました。
ところが、「あっ。」と、みんなは、思わず声を立てました。
みかんがないのです。あんなにたくさんなっていたみかんのみが、今日は、もう一つもないのです。
おしょうさんにだまさらた。」と、一郎が言いました。
「ほんとにうまくだまされた。」と、三次も、ぷんぷんおこって言いました。
すると、そのとき、「おや、あれは。」正雄と清が、みかんの木の下においてある大きなかごを見つけて、走っていきました。
「なんだ、なんだ。」
「あ、みかん。」かごの中には、大きくて黄色いみかんが、たくさんありました。
そして、その上に、紙が一まい。
「おいしくなったよ。みんなでおあがり。ぬすんで食べたら、すっぱいすっぱい
みかんの木の寺のおしょう」と書いて、風がふいてもとばないように、四すみ四こみかんちょこんとおさえて、おいてありました。
おやおや。」と、もう一度おどろいて本堂の方をふりむくと、おしょうさんるすなのか、白いしょうじがきちんとしまっていて、
しょうじの上には、ひさしのかげが長くのんびりうつっているだけでした。
チックとタック

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おじさんのうちのボンボン時計の中には、子どもが二人、すんでいるんですよ。
うそなもんですか。このおじさん、ゆうべちゃんと見たんだから。
おじさんは、名前までしっているんです。
ひとりはチック。ひとりはタック。
チックとタック。チック、タック、チック、タック。
そうらね、ちゃんと時計の音になっているじゃありませんか。
おじさんは、ゆうべ、おすしを食べすぎて、おなかはってちっともねむれなかったんです。
十時になっても、十一時になっても、どうしてもねむれなかったんです。
ゴースーゴースーいびきをかくまねをしても、ムニャムニャねごとまねをしても、どうしても、目がふさがってくれないんです。
ボーン、ボーン、ボーン。とうとう十二時になりました。
おやへんだぞ。おじさんは、目をこすって、じっと、時計ふりこのところを見つめました
十二時をうってしまうと、チックタックといっていたボンボん時計の音が、ぱたっとやんだんです。
そうして、耳をすますと、こんな声が聞こえたんです。
「タック、タック。早くおいで。」
「チック、チック。ふくぜんまいひっかかって、出られないんだよ。」
見ていると、ふりこのとこそのふたが、ボンとあきました
そこから、赤い三かくぼうしかぶった小さい小さい子どもがふたり、そっと首を出して、そとをのぞいていたんです。
おっと、見つかっちゃたいへん。おじさんは、あわてて目をつぶって、いびきをかいてみせました。
「やあ、ねてらあ。」
「いびきをかいてらあ。ずいぶんねぞうのわるいおじさんだなあ。」
おやおやわる口をいっているぞ。
そのうちに、チックとタックは、するするとはしらすべって、たたみの上にストンとおりてきました。
「なにをしてあそばうか。ねえ、タックちゃん。」
かけっこしようか。かくれんぼしようか。」
それより、いたずらしてやろうよ。毛虫をとってきて、おじさんのえりくびにとまらせてやろうよ。」
おおっ、たいへんなことになったぞ。
おじさんは、びっくりして、かめの子みたいに首をすくめました
「ぼく、ほんとは、おなかぺこぺこなんだよ。」とタックがいいました。
「じゃ、台所へ行こう。」
ああ、よかった。おじさんは、ほっとしました
チックとタックは、しょうじのやぶれたところから、台所へ入りこんだようです。
「ああ、ある。いろいろなものがあるよ。」と、タックがいっています。
うまいよ。牛肉つけやきだよ。」
「これはてんぷらだ。ぜいたくなおじさんだなあ。」
おっと、おとうふおつゆだ。」
もぐもぐ、もぐもぐ、食べている。
ああ、おじさんの明日の朝の楽しみが、なくなってしまった。
つまらないなあと思っていると、
「ははあ、おすしだな。さっき、おじさんが、おいしそうに食べていたっけ。」と、チックがいいました。
「どれ、どれ。」くいしんぼうらしいタックが、口いっぱいほおばっているようです。
と、「うわっ、か、からい、からい。」
「ほ、ほ、口に火がついた。」
なきだしそうな声で、チックとタックがさけびました。
そうら、ごらん。ばちがあたった。子どもなのに、おすしのわさびを食べたんです。
おじさんは、おかしくなって、おもわずプッとふき出してしまいました。
その音に、チックとタックは、おどろいたのおどろかないの。
ワッといって、ガタンガタンとしょうじのあなをとびこえてきました。
そして、てっぽうだまみたいに、ピュースポンと、時計の中へにげこんでしまったんです。
それっきり、しいんとしてしまいました。
今朝になって、ぼんぼん時計の音のわるいこと。
ジッグ、ダッグ、ジッグ、ダッグ。
きっと、ゆうべのわさびがからくて、のどがかれてしまったのでしょう。